「DXは都会の大企業の話やろ?」——そう感じる方にこそ読んでほしい内容です。実は、漁業・農業のような一次産業は、ちょっとした見える化や自動化で効果が出やすい分野です。この記事では、九州、とくに福岡の現場感に寄せて、難しい言葉を避けながら、どこから始めればいいか、具体例と手順までやさしく解説します。
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小さく始めて早く確かめる
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まずは1圃場・1いけす・1工程で試すだけでも十分に効果を確認できます。失敗しても痛くない範囲で回しましょう。
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現場の勘をデータで支える
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経験値を否定せず、温度・湿度・作業時間などを足して精度を上げます。勘×データで勝負できます。
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身の丈導入でコスト抑制
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センサーやアプリは月数千円から使えるものもあります。まずは“今ある道具+少しのデジタル”で十分です。
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販路と価格も同時に見直す
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作るだけでなく売り方まで整えると、効果が数字に出やすくなります。ネット販売(EC)や予約販売も検討できます。
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補助金は“目的ありき”で
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お金があるから買うではなく、課題→解決→機材の順で選ぶとムダが減ります。申請は地元の支援機関に相談できます。
最初の30日で手応えを出す現実的シナリオ
「まずは小さく浮かせる→次に広げる」の順でいきます。数字はあくまで目安ですが、やる気が続く設計にできます。
シナリオA:露地野菜(糸島想定)
やること:朝夕の気温と潅水回数をノートorスマホに1分記録。しおれ予防のために「前日同気温なら回数据え置き、5℃以上低ければ−1回」のルールを採用します。
シナリオB:養殖いけす(宗像・遠賀想定)
やること:水温を毎日1回メモ+給餌量を「小さじ1杯」単位で記録。水温が基準を下回る日は−10%の給餌に固定し、船の見回りは曜日固定の3回にします。
シナリオC:果樹の出荷(朝倉想定)
やること:規格外の詰め合わせを金曜17時にSNSで予約販売(数量限定)。箱詰め担当と締切時間を決め、在庫は紙の表で十分です。
超シンプル試算テンプレ
- 今のコスト=燃料+水道+資材+人件時間(家族の時給も仮置き)
- 節約幅の目安=今のコスト×0.1(まずは1割を狙います)
- 初月の成果=節約幅−追加費用(月額アプリや電池代など)
“やる気”が続くチェックリスト
- 記録は1日1分以内で終わるか?(項目を増やしすぎない)
- 見る時間を固定したか?(例:収穫後/作業終了前)
- 家族内の担当表に「誰が毎日見るか」「壊れたら誰に連絡」を書いたか?
- 30日後に増減を比べる表(前月比)が用意できているか?
一次産業にこそDXが効く理由
天候や相場に左右されやすい一次産業は、ばらつきを減らすだけで利益が伸びます。そこで役立つのが見える化(状態を数値で把握すること)と自動化(手作業を機械に任せること)です。福岡・九州には小規模でも多様な経営が多く、現場に合わせて小さく導入しやすい土壌があります。
現場の「勘と経験」を見える化
海水温、土壌水分、作業時間、燃料代など、日々の“感覚”をまずは記録します。紙メモでも始められますが、スマホ入力だと集計が一気に楽になります。たとえば糸島の露地野菜で、朝夕の温度と潅水量をメモしただけで、無駄な散水が減り、軽油の使用量も下げられます。
小さく始めて効果を確かめる
1圃場・1ハウス・1いけす・1工程で試すと、数字の変化が追いやすく、家族経営でも続けられます。福岡市近郊のイチゴ農家なら、1棟だけ温度と湿度の自動記録を入れて、収穫量と働く時間の差を比べるだけで十分です。
用語ミニ解説
IoT(小さな通信センサー):温度や水分などを自動で記録できます。RPA(定型作業を自動化する仕組み):伝票入力や同じ操作をパソコンで自動化できます。AI(学習して予測する仕組み):給餌(魚のエサやり)や出荷量の予測に使えます。SaaS(インターネットで使う業務ソフト):初期費用を抑えて始められます。
すぐ始められる進め方
難しい設計図は不要です。課題を一つに絞る→小さく試す→続けられる形にするの三段で十分です。福岡の商習慣に合わせ、地域の卸やJA、漁協との連携も最初から意識しましょう。
目的の絞り込み(チェックリスト)
- 今、いちばん困っているのは「作る」か「売る」か「運ぶ」か?
- 数字で見たいのは「コスト」か「時間」か「品質」か?
- 3か月後にどうなっていれば成功といえるか?(例:収穫時間▲10%)
例えば朝倉の柿農家なら、「選果に時間がかかる」を課題にして、選別基準を写真で統一し、作業時間の変化を見ます。
導入の小さな実験(PoC(試し運転))
温湿度ロガー1台、スマホの表計算、無料の在庫アプリなど、手持ちの道具と低価格の機材を組み合わせます。糟屋の葉物農家では、出荷箱にQR(二次元コード)を貼り、誰がいつ詰めたかを記録するだけでクレーム対応が速くなります。
補助金の使い方
国や県、市町村の支援は心強い味方ですが、課題→手段→費用の順で固めてから申請します。宗像の漁協エリアなら、まずは給餌の省力化を目的にして、必要なセンサー数と運用の手間を見積もってから検討します。
分野別の具体例:漁業と農業
九州の地の利を活かして、海と畑の両方で取り組めます。ここでは現場ですぐ役立つ小さめの取り組み例を紹介します。
漁業:養殖と漁場の見回り
例1:水温と給餌の最適化(IoT(小さな通信センサー))
いけすに水温センサーを1つ設置し、スマホで日次ログを確認します。柳川のノリ養殖では、水温×潮の動き×給餌量を並べて見るだけでエサの打ち過ぎを防げます。
例2:ドローンで見回り(ドローン(小型無人機))
見回りの定点写真を毎週撮って、色の変化や破れをチェックします。遠賀・宗像の沿岸でも、船を出す回数を減らして燃料を節約できます。
農業:露地とハウスの省力化
例1:土壌水分と潅水の見直し
土壌水分センサーを1本だけ入れて、潅水を“勘”から“数値”へ。糸島のブロッコリー畑で、しおれ予防のタイミングが合わせやすくなります。
例2:出荷と販路のてこ入れ(EC(ネット販売))
在庫数と注文の記録をアプリで一元化し、道の駅・飲食店・ネット販売を同じ見える化の表で管理します。朝倉の果樹園なら、規格外の詰め合わせを予約販売してロスを利益に変えられます。
よくある誤解と失敗
「高い機械を入れれば解決」ではありません。小さく始めて、効果が出た部分だけ広げましょう。協議体(関係者の集まり)を作って、漁協・JA・卸・飲食店と一緒に決めると、導入後の軋轢も減ります。
高価な機材が必要という思い込み
月額の業務ソフトや中古機材で十分に始められます。福岡市東区の葉物農家では、スマホの無料アプリ+温湿度ロガーで歩留まり改善に成功しました。
データが貯まる前に結論を出す
最低でも1作、養殖なら1サイクル分は様子を見ます。宗像の沿岸漁業では、季節要因が強いため、短期の数字だけで判断しないことが大切です。
ベンダー任せにしない
導入時に「誰が毎日見るか」「壊れたら誰が直すか」を決めておきます。直方の米農家では、家族内の担当表を作って運用が安定しました。
今日からできるミニ計画
明日からできる範囲で計画に落とせば、もうDXの一歩目です。道具は“今あるもの+少しの追加”で十分です。
3ステップの手順
- 課題を1つ決める(例:散水のムダ)
- 測る指標を決める(回数・時間・量)
- 1か月試して、増減を数字で見る
太宰府の小規模農家なら、散水回数と収穫量をノートに書くだけでOKです。増減が見えたら、次はセンサー導入を考えましょう。
まとめと次にやること
- 一次産業は見える化と自動化でばらつきを減らすだけでも利益が伸びます。
- 導入は小さく試す→続ける→広げるの順でムダが出ません。
- 福岡の商習慣に合わせ、関係者と最初から共有すると定着しやすくなります。
次にやること:明日の作業から「測る指標」を一つ決めて、紙でもスマホでもいいので毎日記録を始めましょう。