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あの人しかできない仕事…“属人化”をなくすDXの第一歩

あの人しかできない仕事…“属人化”をなくすDXの第一歩

「あの人が休むと請求が止まる」「承認がどこで詰まっているか分からない」——その困りごとは、むずかしいITではなく部署横断フロー・引き継ぎ・滞留の設計不足が原因のことが多いです。この記事では、むずかしい言い回しをなくし、部署をまたいでも止まらない“共通の流れ”づくりに特化して説明します。今日から少しずつ整えていきましょう。

この記事のポイント

入口は一つにまとめる

紙・口頭・メールの受付をやめ、かんたんな申請フォームに一本化しましょう。部署が違っても同じ入口なら、行方不明の依頼を防げます。

台帳は一つに決める

共通台帳・名前の付け方・版(最新版)の管理をそろえましょう。最新版を探す時間をゼロにできます。

引き継ぎできる形にする

5分で読める手順書とチェックリストを用意しましょう。担当が替わっても同じやり方で回せます。

どこで止まるか見える化

作業を並べる板(カンバン)+件数の上限(WIP)+承認の締切ルールで、止まり場所と時間を見える化しましょう。手当てをすぐ打てます。

“部署またぎ”で止まる本当の理由

止まりやミスは個人の努力不足ではありません。多くは入口が多い・置き場所がバラバラ・引き継ぎがないの重なりで起きます。ここを先に直せば、人が入れ替わっても流れは止まりにくくできます。

バックオフィス視点で一本の道を作る

「見積→承認→受注→請求」を部署共通の流れとして作りましょう。依頼はフォームで受け付け、案件番号(自動で番号がつきます)をふり、ファイル名は「案件番号_文書の種類_版」でそろえます。承認の進み具合は見えるようにし、受注が決まったら請求書を自動で作成できるようにしましょう。

よくある失敗

最初から高機能な仕組みにして、入力が多くなり、誰も続かないことです。まずは同じ入口・同じ台帳・同じ名前の3つだけをそろえましょう。

注意:ファイル名や版の決まりがバラバラだと、ベテランだけが正解を知る“暗黙知”になります。名前の付け方と最新版の置き場所を先に決めましょう。

属人化をなくす4ステップ(どの業務にも使える)

大事なのは道具より「順番」です。下の4つを上から順に進めると、無理なく定着できます。

① 業務の棚卸(今の姿→理想の姿)

仕事を「受付→処理→承認→保管」の4段に分け、各段で入力物・出力物・責任者を書き出しましょう。部署名も横に書き、部署をまたぐ受け渡しには★印を付けて見えるようにします。紙やホワイトボードで十分です。

② 入口の統一

依頼はフォームに集めましょう(紙・口頭は終了)。必須は3つだけ——依頼の種類・期限・添付(あれば)。どの部署からでも同じフォームを使い、案件番号は自動でふられるようにします。

③ 台帳と名前のルールを一本化

共通台帳(一覧表)で「案件番号・最新版の置き場所へのリンク・責任者(R)・承認する人(A)・期限」を1枚で管理しましょう。ファイル名は「案件番号_文書の種類_版」で固定し、最新版は必ず1つにします。誰がいつ承認したかも台帳に残しましょう。

④ 滞りの見える化(板+件数の上限)

板(カンバン)に「受付・処理中・承認待ち・完了」を並べ、各列の件数の上限(WIP)を決めましょう。承認の締切ルール(例:24時間以内)も決め、超えたら赤色で分かるようにします。あふれたら入口を一時止め、原因をつぶしましょう。

まずは1業務だけ:「見積依頼の受付」をフォーム化 → 案件番号を自動で付ける → 共通台帳は1枚にする → WIPと承認の締切ルールを決める。この4点だけでも“あの人待ち”を大きく減らせます。博多・天神・小倉のどこでも同じやり方で回せます。

WIP(仕掛かりの上限)の決め方

WIPは「勘」ではなく、人数・実績・目標納期のどれか(できれば組み合わせ)で決めましょう。最初は小さめにして、毎週見直すと安定します。

① 人数ベース(最初の一歩)

  • ルール:1人あたり同時に持つのは1〜2件にします。
  • 処理中:人数×1.5(端数切上げ)を上限にします。
  • 承認待ち:処理中の80〜100%にします(詰まり検知用)。
  • 始め方:まず厳しめで設定し、1週間ごとに±1件で調整しましょう。

② 実績ベース(無理のない上限)

直近4週間の「週あたり完了件数」の平均=Tから逆算します。

  • 処理中WIP:Tの0.8〜1.2倍にします。
  • 承認待ちWIP:処理中の80%を目安にします。
  • 例:完了が週13件 → 処理中は10〜16件(まず12件)、承認待ちは10件にしましょう。

③ 目標納期ベース(リードタイムから逆算)

WIP = 1日あたりの完了数 × 目標日数 で置きます。

  • 例:1日3件完了・目標3日 → WIP=9件にしましょう。
  • 目標を守れない週が続いたら、WIPを1〜2件下げるか、詰まる列だけ下げると効果が出ます。

現場手順(すぐ使える)

  1. 1週間だけ計測:日々の完了数と、どの列で詰まったかをメモします。
  2. 初期WIPを設定:迷ったら②の実績ベースで決めましょう。
  3. ポリシーを掲示:ボード上部に「処理中は最大12、承認待ちは10。超えたら新規着手停止」と貼り出します。
  4. 毎週15分見直し:超過が多い列は上限を下げる/作業を小さく切る、余裕の列は+1だけ試すにします。
  5. 例外レーンは1枠:「至急」は常時1件までにしましょう。常に埋まるなら通常WIPが高すぎます。
貼り紙テンプレ:
・受付:上限なし(ただし未着手が20超えたら受付停止)/
・処理中:人数×1.5
・承認待ち:処理中の80%
・例外レーン:常時1件まで/
・週次点検:毎週金曜15分(超過列は翌週-1、余裕列は+1)
ボトルネックの手当て:承認で止まる→承認待ちWIPを下げ、代理承認者をRACIで明記しましょう。処理中が膨らむ→作業を30〜90分粒度に分け、短時間で片付く形にしましょう。

福岡の現場での具体例

地域のやり方に合わせると、無理なく回り始めます。身近な例でイメージを固めましょう。

例:卸×屋台向けの見積(部署横断版)

フォームの必須項目:屋台名・納品希望曜日・数量の目安・依頼した部署。案件番号は自動でつき、共通台帳に並びます。営業→購買→経理をまたぐ承認も、板を見れば一目で分かります。金曜納品が多いと分かれば、購買のWIPを下げるか、承認の締切を前倒ししましょう。

例:製造×試作→本発注(引き継ぎ強化)

「試作依頼→試食→改良→本発注」を4段で管理します。各段の終わりの条件(例:試食のコメントを台帳に書く)を決め、役割表(RACI)で誰がやるかをはっきりさせましょう。担当が替わっても迷いません。

チェックリスト(3つ以上×なら要テコ入れ)

いまの状態を5分で確認できます。社内でサッと回してみましょう。

自己診断リスト

  • 受付の入口が3つ以上ある(メール・口頭・紙…)。
  • 最新版の置き場所が人によって違う(個人PC・共有・チャット)。
  • ファイル名の決まりがない/版の管理が曖昧。
  • 誰がいつ承認したか分からない。
  • 滞っている案件の場所と件数をすぐ答えられない。
  • 引き継ぎ資料が5分で読める長さになっていない。

用語ミニ解説(やさしく一言で)

カタカナはできるだけ避けますが、出会う言葉を短く説明します。

カンバン

作業の流れを「今どこ?」で並べる板のこと(受付・処理中・承認待ち・完了)。見れば状況が分かります。

WIP(仕掛かりの上限)

各列に同時に置いてよい件数の上限。増やしすぎを防ぎ、詰まりを早く見つけられます。

RACI(役割分担表)

誰がやる(担当)/最終責任は誰/相談先は誰/知らせる相手は誰、を1枚にした表。聞き直しを減らせます。

まとめと次にやること

止まりをなくすコツは、むずかしい仕組みではなく「部署横断フロー・引き継ぎ・滞留解消」の3点セットです。小さく始めて、毎週すこしずつ整えましょう。

  • 入口と台帳の一本化で「探す・待つ・聞く」を減らせます。
  • 5分手順書+チェックリスト+RACIで引き継ぎ可能にできます。
  • カンバン・WIP・承認の締切ルールでどこで止まるかが分かり、手当てを早くできます。

次にやること(具体策):今週は「見積依頼」だけで良いので、
① 共通フォームを作る → ② 案件番号を自動でふる → ③ 共通台帳に自動で入るようにする → ④ 板に自動でカードが出るようにする → ⑤ 承認の締切を「24時間以内」に決める——の順で試しましょう。

もうちょっと知りたかなら、サクッとメールばちょうだい。

小倉 直樹(おぐら・なおき)

執筆者紹介

小倉 直樹(おぐら・なおき)

業務改善ライター/元SE

紙とExcelを卒業するための実務的な工夫を得意とする。
「仕組み化で人に頼らない現場づくり」をテーマに、効率化事例やツール導入のノウハウを紹介。
几帳面な性格から、記事内でも「チェックリスト化」「手順分解」にこだわる。

趣味:釣り/Excelマクロ収集/家電リサーチ

■出身地
福岡県北九州市

■学歴
1990年 福岡県立東筑高等学校 卒業
1994年 九州工業大学 情報工学部 卒業

■経歴
1994年 SIer勤務 システムエンジニア…中小企業の基幹システム構築
2004年 事業会社 情報システム部…社内業務の効率化・RPA導入
2013年 独立コンサルタント…バックオフィス改善・業務標準化支援
2025年 「ChotGPT Fukuoka」専属ライター…紙業務のDX・仕組み化事例を担当

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